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喪服日誌

唐揚げだけが人生だ。/@yuki_mofk

おじさんの話

記述
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電話ボックスにおじさんが詰まっていた。高さ2m弱、四方の幅は1mにも満たないだろう。そんなごく小さな空間に、緑色の公衆電話が静かに佇んでいる。その電話機に向かい合うおじさんがひとり。僕は通勤途中で、足早に駅前の歩道を過ぎ去ろうとしていた。視線は駅を捉え、時折すれ違う歩行者や地に集う鳩、街並みの機微を視界に映す。その端に、おじさんはいた。暗い人影であったから、女子高生かと錯覚した。この時期の女子高生は黒いコートに身を包むから。しかし即座に思考が切り替わる。今時携帯電話を持っていない高校生は少数派だろう、と。では中学生か?いや、背はそこまで低くない。今度こそ視界にとらえる。いた。おじさんだ。あれはおじさんだった。足は自動で目的地へと急ぐので、残像を引いておじさんの箱は後方へ流れていった。その残像を記憶の中の網膜に焼き付けて、視界は再び前を向く。薄曇りの中に切れ間が生まれ、まばゆい朝日が道を照らした。箱に詰まったおじさん。ガラス箱の中のおじさん。思い返しながら、ボトルシップ、という単語が浮かんだ。ガラスの中に詰まったおじさんは誰に何を伝えていたんだろう。おじさんは何者なのだろう。どこで生まれ、どこへ行くのだろう。あのおじさんにも家族が、友が、愛する人がいるのだろうか。携帯電話はこの国で既に広く普及し、老若問わず人を繋げる。確かに公衆電話の数は減ったかもしれないが、今日もこうしてあの箱の中に詰まるおじさんを認めることができた。明日の僕があのおじさんに代わることが無いとは言い切れない。あのおじさんは未来の自分の姿なのではないか。流れゆく日々を愛おしく思い、今日も元気に生きていこうと、そう思った。嘘じゃ。